幹部採用 & 組織
営業部長を採用すべきか、営業管理を改善すべきか
売上が停滞したとき、多くの経営者が「営業のトップ」を探します。しかし、真の課題が「戦略」ではなく「規律」にあるなら、高額な採用は失敗に終わります。
結論から言うと
「営業の方向性(誰に、何を、どの市場で売るか)」が定まっていないなら、営業部長が必要です。しかし、方向性は明確なのに、日々の活動量やパイプラインの管理、行動基準がバラついているなら、必要なのは管理体制(マネジメント)の改善です。この診断を誤ると、高額な報酬で採用した部長が「単なる高給な進捗確認係」になってしまい、組織は何も変わりません。
売上が伸び悩み、焦燥感を募らせる経営者は、決まって「強力な営業部長さえいれば解決する」という結論に至ります。確かにそれが正解である場合もありますが、実は「誰もチームを適切な基準で管理していない」ことが真のボトルネックであるケースが非常に多いのです。
採用には多大なコストと時間がかかります。まずは1時間かけて現状を冷静に診断し、本当に買うべきは「戦略」なのか「規律」なのかを見極めることが、失敗を防ぐ唯一の道です。
「方向性」と「管理」は異なる仕事である
営業部長(ディレクター)レベルが担う「方向性」とは、ビジネスの羅針盤を決めることです。どのターゲットを攻めるか、価格戦略はどうするか、どのような組織構造で市場に挑むか。これらをゼロから構築するのが彼らの役割です。
一方で「管理(マネジメント)」とは、決められた計画を確実に遂行させることです。活動量は足りているか、パイプラインは清潔か、フォローアップは徹底されているか。そして、メンバーのスキルをどう向上させるか。これらは「実行の規律」に関わる領域です。
両方とも不可欠ですが、多くの企業で欠けているのはどちらか一方です。すでに持っているものを高額な給与で買い直すのは、最も避けたい間違いです。
診断:貴社の欠落しているピースはどちらか?
以下の問いに正直に答えてみてください。左側の列に当てはまるなら「方向性」の欠如、右側の列なら「管理」の欠如を示唆しています。
| 質問 | リーダーシップ(方向性)の欠如 | マネジメント(管理)の欠如 |
|---|---|---|
| 来期の成長がどこから来るか明確か? | いいえ、または意見が分かれている | はい、明確かつ一貫している |
| 合意されたターゲットと提案があるか? | 定義されていない、または無視されている | 定義され、概ね理解されている |
| 価格設定は一貫しているか? | 枠組みが存在しない | 枠組みはあるが、守られていない |
| 適切な週間活動量が定義されているか? | 誰も定義していない | 定義されているが、確認されていない |
| 予測(フォアキャスト)は信頼できるか? | 算出方法が存在しない | 方法はるが、入力データが不正確 |
| なぜ成果にバラつきがあるのか? | 組織としての形が決まっていないから | 基準を徹底させている人がいないから |
もし課題が「管理」にあるなら
管理(監督)の問題を解決するために営業部長を雇うと、高給取りの人物がパイプラインの進捗確認ばかりすることになります。それは一時的には機能するかもしれませんが、規律を買う方法としては非常に非効率です。
- 基準を徹底させる権限を持つ営業マネージャーを任命または育成する
- 週次の活動量、クオリフィケーション(選別)、フォローアップの基準を明確にする
- 報告が実態を反映するよう、パイプラインのステージ定義を修正する
- 経営者が参加はするが、主導はしない定期的なレビューのリズムを作る
- 放置されていた未達者に対し、誠実かつ厳格に向き合う
もし課題が「方向性」にあるなら
どんなに優れた管理を行っても、商業的な計画がなければ成果は出ません。どこで成長を勝ち取るかの答えがない状態で活動量だけを増やしても、間違った方向に全力で走るチームが出来上がるだけです。
- 採用を急ぐ前に、ターゲット市場、セグメント、提供価値を再定義する
- その戦略を実現するために、営業組織がどうあるべきかを決定する
- 価格設定とコマーシャル・ガバナンスを確立する
- 経営陣が判断の拠り所にできる予測手法を構築する
- その上で、常勤の部長が必要か、暫定(インターム)やフラクショナルで十分かを判断する
両方が欠けている場合
多くの企業では両方の課題を抱えています。その場合も順序が重要です。まずは「方向性」を定めるべきです。なぜなら、管理基準は戦略に従うべきだからです。時代遅れの戦略に対して活動の規律を強めても、間違った市場に最適化されたチームが残るだけです。
予算が限られている場合は、方向性を示す部長を雇い、その下に実務的なマネージャーを置く構造の方が、同じレベルの二人を雇ったり、一人のマネージャーに両方を押し付けるよりも機能します。
採用前にすべきテスト
来年の売上がどの市場のどの顧客層から来るのか、その論理的な背景と共に書き出してみてください。もしそれが今の社内で書けないのであれば、不足しているのは「方向性」です。その場合、いくら管理の規律を高めても、その答えは出てきません。
それぞれのルートにかかるコスト
具体的な金額は職務内容や市場によりますが、コストの順序は明確です。「内部管理の改善」が最も安価で、次に「フラクショナルや暫定の部長」、そして「フルタイムの常勤部長」と続きます。最も高くつくのは、間違った課題に対してこれらのいずれかを選択してしまうことです。
よくあるご質問
既存のマネージャーを部長に昇格させてもいいですか?
彼らが単なる「実行者」ではなく、戦略的な計画を構築し、取締役会レベルでビジネスの構造を議論できるかどうかが鍵です。不足している要素があるなら、外部のサポートを付けた上での昇格は有効です。
フラクショナルな営業部長で管理問題は解決しますか?
半分正解です。フラクショナルなリーダーは戦略と仕組みを作りますが、日々の現場の引き締めには、社内に常にいる誰かが関与する必要があります。両者を組み合わせるのが理想的です。
課題が製品にあるのか市場にあるのかはどう判断しますか?
競合他社が同じ市場で勝っているなら、課題は営業の実行力(コマーシャル)にあります。もし誰もその価格帯で勝てていないなら、それは製品や価格設定自体の問題であり、営業の努力だけでは解決できません。
今のMDが営業管理を兼任し続けるのはリスクですか?
はい。経営者の頭の中にすべてが入っている状態が続くと、組織としての拡張性が失われます。いずれは誰かに管理を委ねるための準備を今から始めるべきです。
新しい基準を導入するとチームが反発しませんか?
長年基準が緩かった組織では反発が予想されます。しかし、その基準がビジネス上の論理に基づいており、ベテランも含めて全員に平等に適用されるのであれば、通常は時間の経過とともに定着します。
